File11. 豊嶋 邑作/Yusaku Toyoshima

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本インタビューについて

ヨーロッパでプレーしたのち、Jリーガーとしてのキャリアも持つ豊嶋 邑作さんとの対談です。(以下、敬称略)

プロフィール紹介

◯名前:豊嶋 邑作(Yusaku Toyoshima)
◯出身:茨城県つくばみらい市
◯所属クラブ:
→ 柏レイソルU12,U15,U18 ※U-14,15,16 日本代表
→ RCS VISE(ベルギー2部)
→ FC Olimpia(モルドバ1部)
→ FC Jurumala(ラトビア1部)
→ FK Lovcen(モンテネグロ1部) ※UEFAヨーロッパリーグ予備予選出場
→ FK Berane(モンテネグロ1部)
→ いわてグルージャ盛岡(J3)
→ 栃木シティFC(JFL)
→ 房総ローヴァーズ木更津FC(千葉県1部)
→ FC ROWDY MORIYA(茨城県1部)

Q.海外サッカーに挑戦するまでの経緯を教えてください。

豊嶋:小学校から高校までは柏レイソル(J1)のアカデミーでプレーしていて、高校卒業後にベルギーのRCS VISE(当時2部リーグ)というチームに行きました。その後はモルドバ、ラトビア、モンテネグロといった国でのプレーを経て日本に戻り、J3の岩手グルージャ盛岡に加入しました。

日本では、栃木シティFC(当時栃木ウーヴァFC/JFL)、房総ローヴァーズ木更津FC(千葉県1部)、ROWDY FC(茨城県1部)でプレー。現在も社会人サッカーでプレーを続けながら、LEOMAR(レオマール)というプロジェクトを立ち上げ、パーソナル指導などの活動も行っています。

サルウェブ:柏レイソルのアカデミーを経て、高校卒業と共にベルギーへ渡航されたということでしたが、海外挑戦を選択した理由やきっかけはありましたか?

豊嶋:高校を卒業するタイミングで、自分はレイソルのトップチームに昇格できると思っていて、それ以外の選択肢は正直考えていませんでした。ただその時に、今回は昇格させられないから大学に行ってくれと言われてしまって。今では大学に進学してから、即戦力としてJリーグで活躍している選手も多いですが、当時は試合をしてもレイソルのユースの方が大学生よりも強いことが多かったですし、普段からレイソルでプロの選手たちと練習をしていたので自分の中で”大学に行く”という選択肢はありませんでした。

Jクラブユースでの挫折から海外へシフトチェンジ

豊嶋:クラブからは「大学を卒業する4年後にまたレイソルに戻ってきてほしい」と言ってもらっていましたが、クラブ側が4年後に必ず獲得してくれるかというとそうとも言えないですし、かなり難しい選択でしたね。なので、「J2のクラブでも良いから練習参加に行かせて欲しい」と伝えたりもして。自分としてはどうしてもプロになりたい思いが強かったので、ネットで見つけた水戸ホーリーホック(J2)のセレクションをレイソルに黙って受けたこともありました。

結局、水戸ホーリーホックの強化部長の方に「今すぐうちに来るくらいだったら大学行ってレイソル行ったほうがいいよ」と言われたので、もう割り切って大学に行こうと思った矢先、そのセレクションに来ていたエージェントの方に声をかけてもらったんです。そこから、海外に目を向け始めましたね。

サルウェブ:思い切って海外にシフトチェンジしたということですね。最初からベルギー2部のチームに挑戦したのですか?

豊嶋:最初はベルギー4部のチームに行ったのですが、そこの練習試合に参加後すぐに2部のチームに声をかけてもらえて。それでベルギー2部のチームでプレーするようになったという形です。

サルウェブ:ベルギーサッカーのレベルはいかがでしたか?

豊嶋:技術的なところはレイソルなど日本の方が全然高いなと感じました。ただ現地では、たとえトラップミスをしたとしても球際で結局ボールを奪い返せるという選手が多くて。そういったボールに対する執着心や激しさで、ちょっとした技術的なミスもカバーしてしまうのは印象的でしたね。

サルウェブ:その後ベルギーからモルドバに移られたとのことですが、モルドバのサッカーレベルや特徴はいかがでしたか?

豊嶋:モルドバはヨーロッパの小さい国で、日本にも全然馴染みがないと思うのですが、サッカーのレベルは結構高いんです。例えば、モルドバで一番強いシェリフっていうチームは、チャンピオンズリーグの常連で、2年程前にはレアルマドリード(スペイン1部)に勝ったりしています。

所属選手としては、若くて才能のあるアタッカーだったり、身体能力が高いアフリカ系の選手が多くて、コートジボワールとかマリとか、ブルキナファソの代表選手がいました。今ヴィッセル神戸(J1)にいるジョアンパトリッキという選手も、僕と入れ違いくらいのタイミングで同じチームに加入していましたね。そういった形で、特に前線に良い選手が多いなという印象でした。

サルウェブ:そういった環境の中で、ご自身のプレーは通用しましたか?

豊嶋:正直、モルドバではすごく調子が良かったんです。試合にもずっと出ていましたし、結果も出ていました。ただ、モルドバでプレーし始めてから半年ほど経った時にアキレス腱を切ってしまって。日本で手術をするために一時帰国したのですが、その間に僕がいたチームが経営難で消滅してしまったんです。結局、モルドバでのキャリアも半年で終わってしまいました。
日本だと考えられないことかもしれないですが、現地だとこういったことは割とあることですね。とはいえ、少し残念ではありました。

サルウェブ:不運が続いてしまったという感じですね。その後はラトビアでプレーされたかと思うのですが、これはどういった経緯だったのでしょうか?

豊嶋:所属クラブを見つける上での選択肢としては、一から練習参加をするか、モルドバ時代の実績でオファーをもらうかという2択だったのですが、怪我の影響で半年ほどプレーできていませんでしたし、リハビリをしないといけなかったので、できればオファーを出してくれるところがあればと思っていました。そこでオファーをくれたのがラトビアのチームだったので、そこに加入したという流れです。

当時はラトビア国内でのサッカー人気が全然なくて、サッカーへの熱が感じられなかったので、僕の中では今でも一番プレーしたくない国ですね(笑)。
今となってはバルミエラっていう環境も施設も良い新しいチームができて、各国の代表選手とかも集まってきているみたいなので、少しは変わっていると思います。

サルウェブ:モルドバやラトビアでプレーしている若手選手たちのステップアップ先はどういった傾向がありましたか?

豊嶋:モルドバは、ルーマニア、ウクライナ、ロシアに囲まれているので、その辺りにステップアップする選手が多かったですね。ラトビアは結構ロシアから来ている選手も多かったですし、反対に行く選手も多かったです。今は変化しているかも知れないですが。

サルウェブ:モルドバやラトビアでプレーされていた時は、お金をもらいながらプレーをしていたのでしょうか?

豊嶋:そうですね。お金をもらいながらプレーしていました。僕がいたチームは一番環境が良い方だったので、僕の周りでは働きながらサッカーをしている選手はあまりいなかったです。

Q.海外での環境選びについて教えてください

サルウェブ:海外挑戦を検討するうえで、どの国に渡航するかというのはどの選手も迷う部分だと思います。特に、5大リーグの下部カテゴリーから上を目指して行くのか、ステップアップリーグと言われる小国の1部でのプレーを目指して実績を積むべきなのかという選択肢で悩まれる選手が多くいる印象です。この点について、豊嶋選手はどのように考えていらっしゃいますか?

豊嶋:僕はどちらかといえば国にかかわらず、1部リーグにいるべきだと考えています。
ドイツのようなサッカー大国だと、下部リーグといってもレベルが高くて、例えばドイツ4部でもおそらくJリーグと同じぐらいのレベル感はあると思います。そうすると、その下部リーグから上がって行くことができるだけの活躍をするのは相当難しくて。日本人は、チームの中でうまく駒として機能することはできると思うのですが、個人として上位カテゴリーに上がっていくには、(個人としての)圧倒的な結果が必要です。競争もすごく激しいので、下部リーグで目立つ活躍をしてステップアップをするというのは(日本人にとって)正直かなりハードルが高いと僕は思います。

例外として、チームと一緒に(上位リーグに)上がっていくというのであれば良いと思います。所属しているチームが、5部から4部、3部、2部と上がっていけるだけのポテンシャルがあって、何年かかるか分からなくても海外でプレーしたいという思いがある選手だったら、そういった(5大リーグの下部カテゴリーから上を目指す)選択も良いかなと。

サルウェブ:自分の目的に応じて選択する必要があるということでしょうか。

豊嶋:そうですね。なので、自分が選手として一番脂が乗るまでにヨーロッパのトップレベルに移籍したいとか、日本代表の目に留まるぐらいのレベルまで行きたいってなったら5大リーグにこだわらずに、他の国の1部リーグでプレーするのが良いと僕は思います。

それこそモルドバみたいな小さい国でも優勝すればチャンピオンズリーグに出る機会があって、そこで大きな活躍ができればたった一試合でも未来が変わる可能性は大きいです。1部のチームにいれば他の国の1部リーグのチームが興味を持ってくれますし、どちらにしろステップアップリーグの1部でしっかり活躍できるレベルがないと、5大リーグの下部にいても上には上がっていけないと思うので。

サルウェブ:実際、モルドバであったり、小国の1部でプレーすることも簡単ではないですよね。

豊嶋:そうですね。J1の選手が(モルドバに)練習参加に来て、ダメと言われたケースも結構多かったですね。

Q.日本のサッカーと海外のサッカーの違いを教えてください。

サルウェブ:選手として土台になる部分は、柏レイソルの下部組織で培ってきたと思うのですが、海外でプレーする中でギャップを感じた点などはありましたか?

豊嶋:日本での常識が覆された部分は多かったです。日本だとポジショニングだったり周りとの連携を意識して動くという考えがありますが、海外だとこうした考え方を味方にもあまり理解してもらえなかったという感覚です。例えば1対1の守備の場面で、日本だと1人目が抜かれても2人目で取れれば良いと考えて、カバーも含めた守備をするかと思うのですが、海外だとまずカバーは来ないですし、そこはお前が守れよという感じなんです。攻守に限らず、一人一人が担当するエリアがはっきりしているのが、日本での常識とは大きく違う部分でしたね。自分としてはむしろそっちの方がやりやすかったですが。

逆に、日本の方が色々と丁寧で緻密に考えるので、現地の選手ができないプレーができるというのは強みだったと思います。先ほどもいったように、海外だと1対1が個人の責任になってカバーが基本的にはないのですが、そういった局面でカバーができると逆にそれが評価されるんです。攻撃でも、基本的に現地では個人で突破してどうにかするという感じなのですが、そういう時に顔を出して助けてあげるというプレーをすると評価されました。これは日本人だからこそできるプレーであり、海外の選手との違いが出しやすい部分だったと思います。

また1対1の局面でも、相手を抜いたり交わしたりするのは日本よりも楽なことが多かったです。基本的に(相手は)飛び込んできますし、日本みたいに駆け引きしたり粘って対応されることも少なかったので。ただ、抜いた後に後ろからボールをつつかれるとか、ファールギリギリでユニフォームを引っ張られて、バランスを崩したところに長い脚が伸びてくるとか、そういった自分が予想しないタイミングでのディフェンスに慣れるのには時間がかかりました。守備のエリアは海外の方が広かったですね。

日本人の方がボールそのものを扱う技術は上手だと思うのですが、自分の体をどう扱うかという点は向こうの選手の方が圧倒的に上手くて、ボールタッチが多少乱れても体の動かし方とか重心の動かし方でどうにかしていたというのが大きな違いだったと思います。

「状況に合わせたプレー」よりも「自分が得意なプレー」を重視

サルウェブ:なるほど。他にも、”プレーの過程”は日本人の方が上手だけど、”最後に決めきる力”は海外の選手の方が優れているという声をよく耳にします。これについてはどのように感じますか?

豊嶋:海外の選手は、基本的に自分のプレーに対して迷いがないですね。日本人は色々な選択肢を持っている選手が多くて、その中でどのプレーを選択するかを考えてると思うのですが、向こうの選手は”この場面はこれ”と決めている印象があります。なので、シュートを打とうと決めたら、もう何があってもシュートを決めることしか考えてなくて、日本人選手はおそらくシュートを打つ直前までシュートを打つべきなのか、パスの方が良いんじゃないか、というふうに無意識でも考えているように思いますし、その違いが最後の精度の違いに繋がっているように感じます。

サルウェブ:そういったプレーの違いは、普段の練習内容とも関係がありそうですが、その点はいかがですか?

豊嶋:海外の練習の方がすごくシンプルでしたね。例えば、ドリブルは得意だけどパスは苦手っていう選手がいたとして、その選手がドリブルもパスも選べる状況でボールを持った時に、日本だったら全体の状況から(ドリブルかパスか)どっちがいいのかという判断をすると思うんです。ただ現地では、「ドリブルが得意ならドリブルをしなさい」という風に、”苦手なことで勝負しても意味がない”という考え方をします。なので、その選手も迷わずプレーができますし、周りの選手もこいつはドリブルが得意だからそれに合わせて自分のプレーをどうしようかって考える。そういう風に、状況に合わせて何をするかではなく、「自分が得意なプレーをする」という考え方をしていて、それが練習でもすごく出てると思います。

サルウェブ:それは考え方が全然違いますね。そういった練習や考え方を日本でも取り入れた方が良いと思いますか?

豊嶋:そうですね。状況に応じてプレーを選ぶことも、状況を問わずに自分が勝負できるプレーを選ぶことも、どっちもできるのが理想だと思います。その点で、元々状況に合わせて判断するタイプ、つまり日本人の方がどっちもできるようになる可能性は高いと思いますし、すごいポテンシャルを持っているのかもしれないと思いますね。

Q.海外での生活について教えて下さい

サルウェブ:様々な国で生活されてきたかと思うのですが、その中でのカルチャーショックなどはありましたか?

豊嶋:まず、ベルギーは電車とかバスとかが当たり前のようにストライキで止まるので、知らせもなく突然、次の電車からもう今日は運転を辞めますということがあって。2時間くらい待って電車が来ないなと思っていたら、実はストライキだったみたいな。もちろん駅に行くまではそのことは分からないですし、駅でもアナウンスはかかっているのですが、何を言っているかは分からなくて。誰かに聞きたくても基本的に駅は無人なので、なんとか英語が分かりそうな他の人に聞くしかなかったり、そういった経験はすごく大きな違いを感じました。

あとは接客の態度も全然違くて、日本のように”お客様”とは思ってないですね。スーパーで買ったものを投げられたりしますし、昼ご飯食べながらレジをやっていたりとかします。向こうが寛いでいるタイミングで買い物すると舌打ちされたりとか、そういった文化とか考え方が全然違うなと感じましたね。

サルウェブ:それは日本じゃ絶対経験できないことですね。モルドバやラトビアなど東欧の方はいかがでしたか?

豊嶋:警察官が制服着たまま、町の人と一緒にお酒飲んでたりします(笑)。なのでもう飲酒運転とかほとんど取り締まられなくて、もちろん真面目な警察官もいるのですが、結局そういう人も、例えば飲酒運転の車を捕まえた時に車内に知り合いがいたらその時は見逃してくれたりするんです。なので、警察に知り合いを増やせば大体のことは許されるよって言われました(笑)。ただ治安は基本的にすごく良くて、本当の意味で平和だなという風に感じました。

「何事もどうにかなる」海外で鍛えられた逞しさ

サルウェブ:滞在に当たってビザの準備などはどうされましたか?

豊嶋:全部チームがやってくれていました。移籍の時に、必要な書類を全部用意してくれていて、あとはサインするだけという形で、食事と住むところもチームが準備してくれていました。

ラトビアでは一人暮らしで、マンションのようなところを用意してもらっていたのですが、モルドバは選手寮のようなところに住んでました。

サルウェブ:海外での経験を経て、自分の中で一番変化や成長を感じた部分はありますか?

豊嶋:一番は何事もどうにかなるという考え方になったことです。もともと精神的に図太い方ではあったんですが、それがより鍛えられたように思います。海外だと、何事も自分の予想通りで終わる一日というのは本当に一回もなかったので。一つ一つ気にしていたらキリがないですし、起きてしまったらしょうがないから、その中で何をするかだけにフォーカスすることができるようになりました。

例えば、試合とかも本当はしっかり準備して気持ちを作って、100%力を発揮できる状態にしてから(試合に)入りたいタイプだったのですが、向こうだと試合時間を間違えて5分後に始まってしまうからアップもできない、ということが平気で起こるんです。そういう時に、今日はあの準備をしていない、と気にしていてもしょうがないですし、その中で結果を出さないといけないので、何が起きてもその状況で対応するための考え方が身についたのが一番の成長だと思います。

サルウェブ:そういった海外で身に付けた力は日本に戻ってきてからも活かされていますか?

豊嶋:すごく活きていますね。サッカーもそうですが、生活するのがすごく楽になりました。日本だと、思った通りにいかないことが殆どないと思うんです。練習も時間通りにできて、自分が予想した通りにある程度物事が運ぶので。なので逆にストレスがなくなったというか、やりたいことにフォーカスできるような考え方になったのが一番大きかったと思います。

Q.日本でのキャリアについて教えてください。

サルウェブ:ずっと海外でプレーされていた中で、モンテネグロから日本に戻って来たのは、何かきっかけがあったのでしょうか?

豊嶋:モンテネグロにいたのが2014年なんですが、その2014年から2015年というのはちょうど僕の世代が大学を卒業してJリーグ1年目になる年だったんです。なので、ユース時代に一緒にプレーしたり、試合したり、仲良かった選手たちがみんなJリーグでプレーしていて、それをSNSを開くたびに見ていると、そういう仲間というか同世代の選手たちとまた一緒にやりたいなっていう気持ちがすごく強くなったのが帰国の要因の一つです。

あと、サポーターは熱狂的で、海外でしかできないような雰囲気の中でプレーはしていたのですが、どうしても言っていることは分からないし、試合が終わって知り合いと食事に行くという機会も海外ではほとんどなかったので。日本の人に応援してもらって、知ってる人と試合をしたいっていう気持ちが強くなったのが一番大きなきっかけでした。

サルウェブ:帰国後のチーム選びはどのようにされましたか?

豊嶋:ここでもエージェントさんにクラブを探してもらいました。自分が移籍をしたタイミングが日本の移籍市場が閉まるギリギリだったので、自分のプレー映像を送って、興味を持ってくれたところに行こうとなって。そこでオファーをくれたのが岩手グルージャ盛岡さんだったという流れです。

サルウェブ:J3と海外のリーグとの違いは感じましたか?

豊嶋:J3の方が展開が早かったですね。海外だと個人個人がボールをしっかり持つのですが、日本はボールを持ったらすぐに離して、また動き直してという感じなので、そのテンポの違いがありました。

あとさっき話した内容にも近いですが、日本は組織的な動きを求められるので、より運動量を増やさなきゃいけなくて、そこが難しかったです。精神的にも、海外だと文句を言われても何言ってるか分からないから全く気にならなかったのですが、日本だと全部わかってしまうので、そう言った面も含め疲労度は日本の方が大変でした。

カテゴリーや国による”モチベーション”の違い

サルウェブ:そこからJFL、社会人リーグでもプレーされていると思いますが、それぞれのカテゴリー間での差というのはどういったところにあると感じますか?

豊嶋:日本だと、カテゴリーが関東リーグ以下になったり、場合によっては一部のJFLのクラブでも、基本的に仕事での給与をメインに生計を立てて、サッカーでもらうお金はお小遣い程度という状況になっています。なので、若くてJリーグを目指したいという選手もいれば、サッカーもしたいけどあくまでも仕事が大事だという人もいるので、どうしてもモチベーションが同じ方向を向かずに、(選手間で)統一されにくいというのが一番難しいところかと思います。

どんなに、「チームとして本気で上を目指しています」と言っても、選手はサッカーであまりお金をもらえずに、試合に勝ったからといって給料が上がるわけではないとなると、(選手の)気持ちとしてはどうしても仕事がメインになってしまって、仕事に集中したいからといって練習に参加しなかったり、練習以外はサッカーのことを一切考えないという状態になってしまうと思います。そういったところが、苦しい局面での一歩が出るかどうかという細かい部分の違いに直結すると思うので、そこがJ1~J3とは違う難しさだと感じています。

サルウェブ:なるほど。そういった点は海外だとどうなのでしょうか?

豊嶋:海外だと、下のリーグで全然お金をもらってない選手でも基本的に負けるのがすごく嫌いです。勝ったから何かがもらえるという意味づけとか関係なく、「やるなら死んでも負けない」という、日本人とはDNAレベルでの違いがあると思いますね。

やはり日本人は、その試合がどう自分の生活に関わってくるかという点がモチベーションとして大きいと思います。金銭面以外でも、例えば毎試合J1のスカウトが見に来てるとかっていう状況だったら、また(モチベーションや取り組み方が)変わってくると思います。

Q.現在活動状況や今後の展望を教えてください

サルウェブ:現在はプレイヤーとしても活動されながら、パーソナル指導などといった取り組みもされているとおっしゃっていましたが、活動の背景にはどういったものがありますか?

豊嶋:日本に戻ってきてプレーする中で、ミスに対しての当たりが厳しいというかネチネチしているなと感じていて。元々小さい時から、ピッチ外にもそういった事情を持ち込んで、上手いやつが偉くて主導権を握っているという環境がすごく嫌いだったんです。自分は世代別の代表にも選んでもらったり、トップレベルの方にいたこともあったのですが、プロの練習に参加すると、接し方が本当に厳しくて。萎縮して、ボールを貰うことが怖いと思うこともありました。

海外だとそういったところはむしろシンプルで、ミスは気にしないんです。結果を出さなかったらはっきり言われますけど、それは結果を出していないからこそ言われるので。日本だとミスする前からどうせミスするんでしょ、という雰囲気がありますし、それに臆してしまって本当はもっといいプレーができるのにミスを恐れて消極的になっちゃう子が多いように感じていたので、それをどうにかしたいなと思ったのがきっかけです。

それで、僕はメッシが大好きなんですが、「なんでメッシはボール取られないんだろう?」ってことを考えて、ここ2~3年でサッカーを自分なりに解釈しようとしたんです。その中で、”ボールを取られるのはこういう状況だけ”という3つのパターンに行き着きました。

具体的には、1つ目が相手がボールを触ることができる距離にいて、足を伸ばしてボールそのものを触られてしまう時。2つ目が自分の蹴ったボールが相手に奪われてしまう時。そして3つ目が進行方向を塞がれる、いわゆる体を入れられた時です。

こうしたボールを失うパターンを理解すれば、ミスのことを考えすぎずに済む。そしてミスのことを考えなければ、もっと前向きにプレーできる。そういった好循環をメソッドとして整理して、「後ろ理論」としていろいろな選手たちに教えています。ちなみに名前は超適当です(笑)

サルウェブ:なるほど。ミスに対して、精神論だけでなく、技術的な視点から対策をするという感じでしょうか。

豊嶋:そうですね。この3つを理解した上で、実践できる技術があればボールを失わないというのが理論の中心ですね。
まず、自分からボールを蹴らないと決めれば、2つ目の失い方(自分の蹴ったボールが相手に奪われる)がなくなるので、ボールを失うのはボールを触られるか、進行方向を塞がれるかの2つだけになります。

その上で、DFはゴールとの線上にいるので、自分の後ろを守っている人は基本的にいないはずですが、みんな自分が元々いたスペースのことは忘れてしまって、自分が見えているスペースだけでプレーを選択してしまう傾向があるんですよね。

例えば左から右にドリブルした時に、当然DFも同じように動くのですが、その時に元々いた左側のスペースは忘れてしまっているんです。そういった自分の後ろのスペースを上手に使えるかどうかというのも大きなポイントになります。
そうやってボールを失うパターンを限定させながら、自分の後ろ(のスペース)を使う技術を身につけていくことで、ボールを理論上失うことはないというのが大まかな内容です。

豊嶋:基本的にはパーソナルやグループレッスンで個人指導をしているのですが、最近はチーム指導を単発で依頼される事も増えてきました。選手の多くは小学生ですが、JリーグはもちろんヨーロッパやACL(アジアチャンピオンズリーグ)に出場する選手など、プロ選手とも複数契約を結んでいるので、そういった場合はオンラインで試合の映像をもらって分析をしたり、J1の選手にオフシーズンのトレーニングができる時期に伝えたりしています。

サルウェブ:プロから小学生まで、幅広く伝えていくことで、豊嶋さんの中での理論に対する解像度も高まっていきそうですね。

豊嶋:まさにそうですね。自分の中でももっと気づきがあったり、いろいろな伝え方ができるようになっていると思います。

「後ろ理論」で日本からバロンドーラーを

サルウェブ:そういった取り組みの中での目標や展望はあるのでしょうか?

豊嶋:最終的な「後ろ理論」の目標は、日本から(その理論で)バロンドーラーを輩出することです。なので、男女問わず選手を育成していきたいと思っています。また、このメソッドを主体としたチームも作りたい。ジュニアチームから大人のチームまで、全選手がこのメソッドをベースにプレーするチームを作って、J1まで上がりたいです。そこからJ1優勝やACL優勝など、個人としてもクラブとしても世界一っていうところまで目指したいです。自分が生きている間にできるか、できなかったとしても、メソッドを引き継いで達成したいなと思っています。

さらに最終的には、その「後ろ理論」さえも否定したいというか(笑)そこまで辿り着きたいですね。

サルウェブ:プレイヤーとしての目標などはいかがですか?

豊嶋:自分がプレーヤーとして上を目指すということはもう無いのですが、ここ5~6年は、社会人クラブの中でもJリーグを目指しているチームに入って、自分自身はプロ選手として契約してもらいつつチームを上に押し上げるという新たな生き方をしているんです(笑)
なので、地域リーグなどでプレーしながら、Jリーガーよりも上手いと言われるような自分のパフォーマンスを保ちつつ、チームを上に押し上げていくっていうのが、選手としての今後の目標だと思います。自分のプレーにお金を払っていただける限りは、最大限尽くしてプレイヤーとしても続けていきたいなと思っています。

Q.海外挑戦を考えている選手に向けてメッセージをお願いします。

豊嶋:僕自身もそうだったんですが、海外に行く選手は、一日でも早く上のリーグに行きたいって気持ちがあると思います。もちろんそのモチベーションを持っておくこと自体はすごく大切なのですが、結局その気持ちがあればステップアップに繋がるということはほとんど無いんですよね。

地道に、認められた結果で認められた場所へ段階を踏んでいくっていう。自分の感情は関係なく、自分の出した結果で行けるところに行って、またそこで結果を出す。その作業を繰り返していくことだけが、ステップアップの一番の近道だなというのが自分の経験でもそうですし、確信している部分です。

できることなら一足飛びで良いところまで行きたい気持ちを、よい意味で捨てるというか。
自分に与えられた場所でまず結果を出すこと。そうすれば、その結果に見合ったところには絶対たどり着くので。そうしたらまたそこで同じ様に結果を出すことだけに集中する。他のことは何も考えない。自分が出した結果に応じて、身をおける場所で淡々とまた結果を出し続けるというところにフォーカスしたほうが、最終的には良いところにたどり着くと思います。

自分がいる場所でやれることを淡々とやる

仮にオファーがもらえなかったり思うようにステップアップできなかったとしても、早くここから出たいと思いながらプレーをするのではなくて、まずは今ここでできることに淡々と取り組んでしっかり結果を残すことが重要。それが結局次に繋がるというか、そうすることでしか次のステップには繋がらないと思っています。

サルウェブ:置かれている状況や環境に対して、焦ったり腐ったりせず、我慢もしながら自分のやれることをやるということですね。

豊嶋:そうですね。自分のパフォーマンスを高めようとする意識とか、意欲とか、もっとできるはずだと思うことはすごく大切。
でもそれ以外のことを自分でコントロールしようとしないっていうことを僕は一番伝えたいです。

自分の感情に左右されず淡々と取り組むことや結果を残し続けることは簡単ではないですが、海外の環境では特に、”今できる最高が何か”という考えにシフトすることが大事だと思います。

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